クレイトン・クリステンセン『イノベーションのジレンマ:技術革新が巨大企業を滅ぼす時』 - Fuwafuwa's memorandum

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クレイトン・クリステンセン『イノベーションのジレンマ:技術革新が巨大企業を滅ぼす時』

イノベーションのジレンマ (―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press))


2015年6月に英国トップブランドであるバーバリーとの専属ライセンス契約打ち切り後、売上高が激減した三陽商会は広告宣伝費・物流依託費削減・大規模なリストラにより純利益を確保しようとしましたが、2018年12月の赤字見通しを受け、自社ビル譲渡および三度目の大規模リストラに踏み切る形となりました。

連続赤字もさることながら数年に渡る厳しいコストカットは、人材やノウハウ、数十年培った社内文化を明日のために切り売りする行為でもあります。三陽商会と言えば50年以上の歴史を持つアパレル業界における名門中の名門ですが、その三陽商会がバーバリーの喪失により、何故ここまで打撃を受け、3年が経過した今もバーバリーを超える収益を見つけられないのでしょうか。

そのように考えた時、三陽商会がただ手をこまねいているわけではなく幾重ものジレンマによって苦しめられていることがわかります。ここではクレイトン・クリステンセンにちなんでそれを「イノベーションのジレンマ」と呼びましょう。なぜこの歴史があり、巨大で、生真面目な企業が苦しめられなければならないのか。

三陽商会は50年代頃からアパレル企業として、高度経済成長の最中にあった百貨店に出店することで成長しきました。70年代頃からは様々なメーカーとのライセンス生産を行なっており、その一つがバーバリーでした。三陽商会は高い技術と品質を保証し、バーバリーの名でヒット商品を展開してきました。高い品質の商品を百貨店に卸す一方で、三陽商会は知名度の高い自社ブランドの確立には至りませんでした。

それは三陽商会が怠け者だったからではありません。ここに一つ目のジレンマがあります。三陽商会がバーバリーとの専属契約企業として、百貨店への出店企業として、生真面目にバーバリーや百貨店としてのブランドに相応しい商品を追求すればするほど、それより遥かに小さなブランドーーどんなブランドでも最初は小さいものと決まっているーーの生産や販路拡大は劣後されてしまうのです。

バーバリー喪失後、売り上げが激減した三陽商会は、高い品質の自社ブランドを定価をその品質より下げることを余儀なくされましたが、売上回復はなおも難しい状態です。ここに二つ目のジレンマがあります。三陽商会は新規参入してくる下位ブランドと自社を差別化させるために商品の品質を向上させてきましたが、その高い品質は消費者の要求を遥かに上回っており、言わば供給過多の状態にあります。

昨今の百貨店の凋落を受け、三陽商会はインターネットショップへの販路拡大に舵を切りました。グローバルに見てもアパレル企業はインターネットで覇者が決定しておらず、投資先として外れてはいないはずです。ですがここには三つ目と四つ目、そして五つ目のジレンマが存在しています。

三つ目は、未発達な市場のため、ユーザーが誰で、何を望んでいて、最終的にどの程度の市場になるのか誰にも分からないこと。四つ目は、まだ小さいその市場では、巨大になりすぎた自社を最早支えていられないということです。最後の五つ目のジレンマは何か?株主です。百貨店でハイブランドを展開してきた三陽商会が、インターネットで万人ウケする汎用的な商品を売買することは、かつての三陽商会を支えてきた株主を少なからず裏切ることになるでしょう。

多くの場合、巨大化した企業には自社を支える持続的事業が存在しています。企業はその持続的事業を更に拡大するために、すでに存在している市場に対して商品を改良し、品質を向上させます。既に存在する価値観に抵抗し、品質のより低い商品(ブランド)を創造することは、すでに存在するものの品質を向上させることよりも難しいとクリステンセンは述べます。

何故なら企業は、マネージャーから末端のスタッフに至るまで、今ある商品の品質を向上させることの方にインセンティブが働いているため、それに逆らってまったく新しいものが出てくることはほとんどないからです。と言うことであれば、これは個々人の能力の問題ではなく組織の在り方の問題ということになり、私たちが追求すべきは賢い人ではなく賢い組織ということになります。

企業の母体を支える持続的事業に対して、そうした事業のあり方そのものを塗り替えてしまう破壊的事業ーーイノベーションを創出するための賢い組織の在り方とは、破壊的事業を行う組織を分離してしまうことだとクリステンセンは述べます。小さな資本で維持でき、小さな売り上げが株式市場における破壊的事業のアピールになり、小さな売り上げを追うことが組織の人々におけるインセンティブになるような。

それは持続的事業においては取るに足らない規模であり、採算がつかずに赤字が続いている企業も世の中にはたくさん存在しています。なのに何故多くの巨大企業は一見赤字のもとである破壊的事業に毎年巨大な額を投じるのか?そうしなければいずれ持続的事業そのものがジレンマによって食いつぶされ、企業が滅ぼされてしまうとわかっているからです。

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