池上直巳『医療・介護問題を読み解く』 - Fuwafuwa's memorandum

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池上直巳『医療・介護問題を読み解く』

医療・介護問題を読み解く (日経文庫)


医学における女性差別が注目され医療従事者の労働環境が問題とされていますが、(特に医者の)労働環境を改善する・しないに関わらず現行の医療制度は近い将来破綻する。

具体的な時期としてはまず第一次ベビーブーマーが75歳を超える頃にこの制度の脆弱性が市井の人々に痛感されるであろう(あらゆる疾病における75歳前後からの発症率の上昇度を見よ)。その次に第二次ベビーブーマーが前期高齢者に差し掛かる頃には同時多発的に諸制度が崩壊し全体を見直す必要性に迫られるだろう。

問題の本質はごくシンプルで、医療費と社会保険料との差分は一般会計により賄われており、赤字国債を発行することによって現行の医療制度を維持してきたことにある。高齢化により医療費との差分は2000年代から大幅に増加し、2014年にはおよそ4分の1にも達しており、今後も高齢化が進む中で容赦無く上昇するだろう。

問題はシンプルだがその過程が複雑極まりなく、それが我々の合理的な意思決定を阻んでいる。一番シンプルな解決策は保険料率をあげることかも知れないが、それは一番考えなしな(率直に言って安易な解決策に安易に飛びつくお馬鹿)解決策だろう。

医療制度の中には不合理な価値観に基づいたものや、現在すでに時代遅れになっているもの、制度上想定されたものと現場が大きく異なり非効率を招いているものも多い。全ての人が平等に適切な医療を受ける権利があり、弱い存在は支援しなければいけないという倫理的な問題に加え、縦割りの省庁を跨り「医療において何が必要とされているのか」というコンセンサスを取らなければならない。

従って、冒頭の女性差別に伴う医者の労働環境改善の議論、賛否に関わらず私は非常に冷ややかな気持ちだった。問題も何も、一体何が問題なのかすらほとんど誰にもわからないというのが医療制度における本音であろう。分からないものに対して正しいも間違っているもなく、まずは分からないということを率直に受け止め、不格好でも分かる努力を積み重ねなければならない。

政治における建前と無知の非合理さを淡々と批判しつつも、現状高いレベルで皆国民をカバーし、可能な限り平等で高度な医療を提供してきた事実を認め、万能薬はないことを承知の上で「今よりも現状をよくできる可能性のある妥当な線」を真摯に問いかけた非常に良い本だった。ただし恐らく非医療従事者が読むことを想定していないため、中身はかなりハイコンテクストなので読者の周辺知識によってカバーする必要がある。

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