女神の見えざる手 - Fuwafuwa's memorandum

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女神の見えざる手

女神の見えざる手
http://miss-sloane.jp/sp/

見た。

原題の通りキャラクター映画にも関わらず当のスローンさんには最早人間味すらないアンバランスさが非常によかった。ミステリマニアであれば初動からオチが読めてしまう感じも否めないがとにかく愉快でストーリーも凝っておりなによりキャラクターがよい。とりわけ終盤にエズメがスローンに歪んだ形であれちゃんと認められていたと気がつくシーンなどは「そういう百合かな…?!」とすら思った。熱い。

なお邦題の「女神の見えざる手」は個人的にはすごくダサいなと思う(アダム・スミスなんも関係ないし、私は意味のないタイトルというのが嫌いだ。この場合は原題の通り「スローンさん」ないしは「スローン氏」でよいと思う)

■アメリカの銃規制
アメリカの銃規制問題において主な争点となるのは、アメリカ合衆国憲法修正第2条、国民がその生命を維持するために武装することの権利を保証する条文である。映画レビューなどを見ているとここを誤認している人も多いが、この条文はあくまで「武装の権利」であって「銃を気軽に手にする権利」ではない。だからこそその解釈について論争となるのである。

この条文について理解するためにはアメリカという国家の成立について考えなければならない。重要な点は次である。第一に、アメリカ大陸はヨーロッパ帝国の植民地だったこと、第二に、アメリカ独立後もフロンティア開拓の中で先住民族であるインディアンとの抗争が絶えなかったこと。

第一に、アメリカ大陸はヨーロッパの、主にイギリスとフランスの支配下におかれたが、その両者とインディアンの間では対立が絶えなかった。その後イギリス軍がフランスとインディアンの協力体制に勝利するが、入植者たちは今度はイギリス本土の強い支配の下に置かれ、独立前夜にはイギリス本土の軍によるポグロムなども発生している。

第二に、アメリカは独立後もアメリカ大陸を西部に向かって”開拓”し続け、その間絶えずインディアンと抗争を起こしている。主にカウボーイに焦点を当てられる西部劇は牧歌的に語られるが、実際にはインディアンと抗争し、最後には虐殺し、屈服させることで開拓を成した。それまでの過程では入植者たちも絶えず命の危険にさらされており、武器は必須であった。

国家の成立のためには国民も武装する必要があり、そのために国家はその権利を剥奪することはできない。銃規制反対派はその解釈を銃の自由な所持にも当てはめており、この”権利”を覆すことは難しい。劇中の銃規制推進派の規制内容も、銃購入時における審査等、日本のような国に住む人間からはかなり消極的に思えるような内容になっている。

■アメリカのフェミニスト
劇中のスローンが有力フェミニストに協力の打診に行くシーンで、スローンが「私はフェミニストじゃないので」と言った後、フェミニストの代表が放った「あなたって男みたい」というセリフに私は笑ってしまったのだが、それはジェームズ・ティプトリー・ジュニアのことを思い出したからだ。

ジェームズ・ティプトリー・ジュニアは今尚高名なSF作家だが、男の名前でフェミニスト団体に入団し、その後団体を追放されたというエピソードがある。理由は「女の気持ちが分からないから」ここでは性の決定権が団体の方にあり、その実際の性とは関係なく、女(の味方)ではないとされた人間は追放されるという権力関係が存在している。

とはいえこのティプトリーのエピソードはいわゆるラディカル・フェミニストがその運動を強く牽引した時代のことである。フェミニストにも様々な立場があるが、このラディカル・フェミは男と女の関係を強力な支配/被支配と捉え、抵抗することで様々な権利を勝ち取ってきた。現代日本でも京都大学でミス・コンテストが企画されるたびにフェミニストからの抵抗があるが、これはラディカルなものとみなせる。

しかし70年代以降に活発になってきたのは、あらゆる性の抑圧を告発するウーマン・リヴであり、特に90年代以降は男性や女性といった性別に関係なく抑圧からの解放を促すリベラル・フェミニストが台頭していきている。エマ・ワトソンなどがその典型としてあげられるだろう。彼女が「フェミニズムは男性の問題であるのです」というのはそういう意味であり、「男らしさ」が男性にもたらす抑圧や矛盾を問題にしているのである。また、このような性別の垣根を超えようとするリベラル・フェミニズムは、現在のLGBT運動にも多大な影響を与えていると考えられる。

私はアメリカのフェミニスト団体のことはよく知らないが、今の主流はリベラル・フェミニストだということなので、劇中におけるフェミニストの描かれ方には少々古臭い印象を受けた。しかし男女平等指数が極めて高い欧米で(因みに日本は国際比較で最低レベルである)こうした描かれ方をされるということ自体が個人的にかなり面白かった。

■アメリカのロビイスト
アメリカのロビイストといえば第18代アメリカ大統領グラントが、妻が嫌煙家なのでロビーでタバコを吸っていたら、そこに政治関係者が集まるようになりやがてロビイストと呼ばれるようになったという逸話が有名である。
またこの時代のアメリカは「金ピカ時代」と呼ばれ、開拓と独占で巨万の富を築いた富豪が低俗で悪趣味(?)な豪邸を建てたり、実に容易に金で買われる政治家やロビイスト達の賄賂や汚職が社会問題とされてもいた。
現在もアメリカにおける強い関心である企業の社会的責任や、ロビイストによる賄賂や”接待”の規制の背景に、大陸開拓のアメリカン・ドリームの只中にあった暴力的な熱狂があることは、企業や職業倫理を考える上で重要であると思う。それは初めから当たり前にあったわけではないということである。ロビイストの規制は劇中でも重要な争点となる。

ところでアメリカのロビイストといえば、もうお分かりですね、社会調査です。アメリカの大統領選は非常に熱狂的でありあらゆる調査会社や団体がその結果を予測しているが、ロビイストはその予測に基づいて戦略を立てる。大統領において社会調査は極めて重要なメソッドとなる。

大統領選といえばトランプ/ヒラリー戦において、トランプの勝利はあらゆる人に驚きをもって迎えられたが、私はあまりにも人々が驚いていることの方にこそ驚いた。社会調査の結果が上流層に偏りがちなことは容易に予想できるし、何よりオバマという左の象徴の後には、必ず右への揺り戻しが起こるだろうと考えていたからだ(これは左と右のどちらがより優れているという問題ですらなく、世論は絶えず両者を行き来する、くらいの意味合いである)。

中には「私の尊敬する××という人の予測が外れるなんて云々」「最新の研究に基づいたアルゴリズムで予測されたのに云々」という人も散見されたため、すわアメリカの調査会社はそんなに優れた調査のメソッドを持っているのかと感心し、調べてみたもののこれがまあ予想を上回る酷さだったので私はひどく落胆させられた。なにせ、21世紀でも電話調査とメール調査が主流であり、特に貧民街では住所と人物すら紐づけられないような有様だからだ。

garbage in garbage out とはよく言ったものだが、ゴミを入れてもゴミしか出ない。最新の研究でも最新のアルゴリズムでもなく、泥臭く実直に正確なデータを手に入れることがどれだけ重要か、それが如何に難しいことか、それを思い知らされるエピソードである。特に文系学問に妙な理系コンプレックスでも抱いているのか、この数式が凄いだのアルゴリズムだの言いたがる人がたまに現れるが、我々のなすべきことはその手前にあると私は思う。

まあ「女神の見えざる手」に社会調査の話は特に出てこない。「ロビイストとかいう劇中のこんな派手な人たちもきっとこういう地味な作業をしているんだろうな…ふふふ」と思って勝手に妄想していただけである。

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