社会学の成り立ちと統計学の発展についての覚え書き - Fuwafuwa's memorandum

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社会学の成り立ちと統計学の発展についての覚え書き

「数理社会学と社会物理学の違いとは何か?(違うものなのか?)」と聞かれる機会があったので覚え書き。

大学学部生向けの標準的な社会学の教科書ではコトの始まりをヴェーバーとデュルケムに置くだろう(あるいはそこにジンメルが加わる)。もう少し時代を遡ったものではコントがその役割を担うかも知れない。しかし私はその栄光ある座にコンドルセを据えたい。

『人間精神の進歩の歴史』が出版されたのはコンドルセが死去して1年、かのマリー-アントワネットが処刑されて2年後の1775年のことだ。この前後100年間のフランスの情勢は内外ともに凄まじいものだった。啓蒙主義の席捲、民衆の蜂起、貴族の抵抗、国王の処刑、イデオロギーに基づいた侵略、自由・平等・博愛の名の下に始まった改革は後に恐怖政治を招いた。ジロンド派の論客だったコンドルセはその混乱の最中逮捕され獄中死している。ロベスピエールが失脚したのはそれから僅か四か月後の事だった。

1776年の国立学術院設立の際には、ドヌーによって「道徳科学こそが自由への欲求を呼び覚まし抑圧を解いた」と演説された。この道徳科学はコンドルセの言及によると、ニュートンの合理的な力学とロックの人間精神に関する観念論が結合したものであり、人間・社会に関する合理的理論を指す。王制や宗教による支配と権力から脱却し観測と推論に基づき合理的に人間を理解する、それが人間解放の強烈なイデオローグと結束し共和制を樹立した。

前述の『人間精神の進歩の歴史』においてコンドルセは道徳科学を歴史的側面と数学的側面に分類し、後者を特に社会数学と呼び習わした。社会数学は当時西欧世界において体系化されつつあった統計学に基づく人間理解を指す。前者は後にコントに、後者はケトレーに受け継がれ、「社会力学」あるいは「社会物理学」と名付けられたが、最終的にはコントの編み出した「社会学」で定着したようだ。

これは本のタイトルから察せられるようにヘーゲル的な進歩史観に基づいており、人間というものが直線的な「歴史の発展」上に存在しているという世界観が展開される。時は19世紀、鉄道が整備され蒸気機関車が大陸を横断し科学技術によって人間の生活が急速に変化した時代だった。このような素晴らしい科学的・技術的発展が人間・社会の分野でもその恩恵をもたらすだろうという大きな期待があったことは容易に想像でき得る。

この頃のインテリの主な関心事と言えば道徳と宗教である。道徳科学の文脈では医師や心理学者や社会学者が自殺の統計に熱中して、より不道徳な国や地域を特定し、それを病理・社会の観点から理解した。その文脈で著述されたのがデュルケムの『自殺論』である。デュルケムはコントの提唱した社会学の学問的基礎に貢献したが、とは言えこの著作で扱われる統計は集計と比較と言ったごく素朴なものであり、現代的な計量社会学の方とはかなり趣が異なっている。

現代の科学系の学部で標準的な科目である基礎統計の大分を20世紀初頭にイギリスの統計学者フィッシャーが提唱している。特に分散分析といった群の比較方法は心理学の実験・観察に取り入れられ、アメリカの社会心理学者モレノによって社会学に輸入されたのではないかと推定している。この一派は今では計量社会学と呼ばれ、特にアメリカの社会学会で活発である。

ちなみにちょっと調べたけど数理社会学の出所はよく分からなかった。1960年代からこの動きが活性化したらしく、ゲーム理論との関係も深いようなので、20世紀初頭に経済学において数学的厳密性を希求するようになったものが多学界に伝播したものではないかと推定される程度である。因みに日本では世界唯一(?)の数理社会学界が1980年代に発足しているが、内容としては計量社会学の比重が大きい模様。

冒頭の問いに答えると、数理社会学とは第二次世界大戦後に発足した比較的新しい分派であり、社会物理学とは社会学黎明期に時々用いられた別名であって現代ではもう使われていない(はず)。更に言うと数理社会学とは演繹的な理論を重視しており、ケトレーの指したような社会物理学とは現代の計量社会学に近く、これは観測の技法の一種なので、社会学の中でもかなり異なる立場にいると考えられる。

更に更に言うと、コンドルセやコントの時代においては観察と推定が重視されていたものが、数理社会学の後の世代では演繹に焦点が当てられるようになったというこの反転は面白いと思った。

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