リチャード・セイラー『行動経済学の逆襲』 - Fuwafuwa's memorandum

Fuwafuwa's memorandum

Data analysis, development, reading, daily feeling.
MENU

リチャード・セイラー『行動経済学の逆襲』

行動経済学の逆襲 (早川書房)行動経済学の逆襲 (早川書房)
リチャード セイラー 遠藤 真美

早川書房 2016-07-25
売り上げランキング : 4764

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


まず邦題が非常に良いですね。原題の「Misbehaving: The Making of Behavioral Economics」に対して「行動経済学の逆襲」です。著者はジョークが好きな自称ぐうたらな男にして反逆の経済学者、リチャード・セイラーであり、2015年にはアメリカ経済学会会長に就任、2017年にはノーベル賞を受賞した経済学界の超大物です。

行動経済学の立役者の一人であるセイラーが大学院生だった1970年代には、経済学では合理性に基づいて選択を決定するエコンを前提とした経済学が主流であり、経済理論に削ぐわない人間の振る舞いについては「誤差」や「例外」として大きな関心は向けられませんでした。

エコンを前提とした合理性とは次のようなものです。夕食前に腹が膨れるとせっかくのディナーが楽しめなくなってしまうのでカシューナッツを片付けたが、エコンにはその理屈が理解できません。「腹が膨れたくないなら食べないだろうし、食べるのならそれは腹が膨れても構わなかったからだ。自由意志に基づく選択肢は多いほど決定者の効用を高めるのであって、カシューナッツを片付けてしまうのは”パターナリスティック”だ」

セイラーは合理性に基づかないヒューマンの「おかしな振る舞いリスト」を研究室の黒板に書き、その後指導教官の忠告も無視して研究人生の多くをヒューマンの振る舞いを解明することに熱中します。しかしそれと同じか、それ以上の困難として立ちはだかったのは、そのような「おかし振る舞い」が「誤差」や「例外」ではなく広範に存在していることを、経済学界に認めさせることに他なりませんでした。

セイラーによると、現代経済思想の基礎を形作ったアダム・スミスは、あらゆる経済学のトピックについて論じた『国富論』に先立って『道徳情操論』を記しました。これは今で言う行動経済学を扱った著作ですが、この中でスミスは人間の経済活動における「情動」の重要さについて論じます。経済学の初期においては、経済活動を理論化する上で人間の情動を解明することの重要性が説かれていたのです。

このような素朴な心理学的な議論から経済学が遠ざかったのは1930年代で、特にそれを牽引したのが天才として名高いポール・サミュエルソンやヴィルフレド・パレートといった経済理論に数学的厳密性を加えた経済学者たちであり、これ以降は現実のヒューマンの振る舞いに即した議論は急速に風化していったのだというのがセイラーの主張です。

セイラーの「おかしな振る舞いリスト」はカシューナッツの例のように非常に素朴でありふれた光景です。しかしそうした振る舞いを経済学に導入しようとした時に受けたのは、当時の経済学の主流たる合理性主義の重鎮達からの猛烈な反論と激怒でした。セイラーはこのようなおかしな振る舞いがありふれたものであることを納得させるために、心理学者と共同研究を進める傍ら、ジャーナルに「おかしなふるまい」のコラムを書き、合理的選択派と行動経済学派を招いてディスカッションを開き、論文誌上で合理性主義者と猛烈な応酬を繰り広げ、世界中の研究者を集めて行動経済学セミナーを主催しました。

自称ぐうたらな男であるセイラーの華麗なる活躍はそれだけに留まらず、研究や校務に加え、企業や公的機関において行動経済学に基づいた企画・立案といった仕事にも積極的に携わっていきます。本書は車メーカーやスキー場の販売・経営戦略、臓器提供の承認システムなど、あらゆる問題における経済学の応用に言及されます。出てくる登場人物も各界の大物ばかり。行動経済学の成立過程とともにその実践までが書かれ、まさに1冊で3度おいしいと言える本でしょう。

Leave a reply






管理者にだけ表示を許可する

該当の記事は見つかりませんでした。